トーク番組でのベッキーさんの話
先日、観ていたトーク番組で、ゲストのベッキーさんがこんな話をしていました。
一部引用します(敬称略)。
ベッキーさんが同番組に前回出演した時の「20代ほぼ毎日泣いていた」という話を受けて
MC「20代ほぼ毎日泣いてたって嘘だと思うよ。楽しそうだったもん」
(中略)
MC「どういう涙なの?」
ベッキー「ストレス」
(中略)
ベッキー「キャパオーバーだったのかも。でもキャパオーバーっていう言葉を知らなかったから、なんか、泣いてる」
(中略)
MC「でも、収録中は楽しいんだよね」
ベッキー「楽しい、楽しい」
(中略)
MC「寝てないからね、大学行きながらとか、勉強もあるし」
ベッキー「たぶん、忙しいって泣きやすくなるっていうか」
MC「忙しいって、あれだめだよね」
(中略)
ベッキー「ふとした時に、理由もなく涙でちゃう」
2021年9月8日放送「あちこちオードリー」より
この話を聴いてMCとの軽妙なやりとりに笑いながらも、大活躍の裏で随分とストレスがかかっていたんだな、と切ない気持ちになりました。
ベッキーさんの話には、一般の人たちにも共通する2つの大切なことが含まれています。
それは、
- ストレスサインに気づく
- 「楽しい」ことでも、ストレスになることがある
ということです。
ストレスサインに気づく
たとえば、事件や事故など、突然大きな出来事が起こった場合は、‟ストレスがかかっている”ことに、自分自身で比較的気がつきやすいです。
一方、少しずつ蓄積していくストレスは、自分自身で‟ストレスがかかっていること”に気づきにくい傾向があります。
ストレスに気づきにくい状況とSOSサイン~Hさんの話
私の学生時代からの友人でHさんという女性がいます。
とても穏やかで朗らかで優秀な人です。
かなり昔の話ですが、Hさんが、職場で初めて大きいプロジェクトを任されて、段々と忙しくなり、朝早くから夜遅くまで休みなく働くようになった頃、ある日の終電の中で、突然涙が止まらなくなったそうです。
そのときは「何で涙が出るんだろう」と思ったそうですが、プロジェクトが一段落して、しばらく経ってから、自分はかなり追いつめられていたことに気がついたんだそうです。
プロジェクトを任されたことは嬉しかったし、徐々に忙しくなっていったのも、成功させるためには当たり前と受け止めていたため、そのときは、大きなプレッシャーがかかっていること、寝ていない、食べていない、休んでいないことが、自分のストレスとなっているとは考えもしなかったのです。
理由のわからない涙は、Hさんの心身が出したSOSのサインでした。
Hさんは、プロジェクトが一段落したこと、基本的にストレス耐性が高いことから、危機的な状況をやり過ごすことができました。
そして、後に振り返り、理由の分からない涙は自分のSOSのサインだった、と気づけたことで、それ以降、ストレスと自分の状態を意識してバランスをとりながら働くようになりました。
Hさんは今、結婚と出産を経て、家庭と仕事とを両立させ充実した日々を送っています。
ベッキーさんのストレスサイン
ベッキーさんの話を聞きながら、私はこのHさんのことを思い出しました。
ベッキーさんの話の中で・・・
‟理由もなく涙が出る” ‟寝てなくて忙しい” これは、完全にストレスサインです。
‟忙しくて寝ていない or 眠れない”状態は、脳の活動リズムを崩してしまいます。
一日二日であれば、再び元に戻っていきますが、人間の体も心も司るのは脳ですから、睡眠不足の状態が続いていくと、体にも心にもストレスが慢性的にかかっていることになります。
ところが、徐々に忙しく、徐々に寝ていない状態になるというのが厄介で、意識していないと‟忙しいことも寝ていないことも当たり前のこと”として受け止めてしまいがちです。
‟理由もなく涙が出る”のは、脳が自身をコントロールできなくなっているからです。
現在のベッキーさんは、‟理由もなく涙が出ること”をストレスがかかりすぎていたとわかっています。だからこそ、笑ってネタにして話せているのではないでしょうか。
もし、皆さんも「よくわかんないけど泣いてる」「最近睡眠不足が続いてる」「寝たいのに眠れない」「忙しくて土日休めない」という状況であったら、どうぞストレスサインを疑ってください。
サインに気づいたらどうしたらいいか?
可能な限り、寝て仕事をせずに休んでください
とにかく脳を回復させることが大切です。
「そんなことできたらしてるよ!」「できないからつらいんじゃないか!」という声も聞こえてきそうです。
その気持ちも痛いほどよくわかります。
かつて自分も、そう思いながら働いていた時期があるからです。
かつて私自身も
偉そうに話している私自身も、今よりも若かった頃、ベッキーさんと同じような体験をしたことがあります。
心理の専門職なのに(小声)
ちょっと(いやかなり?)恥ずかしい話です。
当時、まだ経験が浅かった私は、知識としてストレスのことを知っていても、今の自分の状態がそれに当てはまるかどうか、つなげて自覚することが、上手くできていませんでした。
徐々に仕事が増えていき、やりがいを感じて夢中になっていたので、睡眠が足りなくなっていっても、休みがなくなっていっても、それが日常になっていました。
若さゆえに体力も意欲もあったため、心身にストレスがかかっているのに走り続けることができてしまったのも、自覚に時間がかかった理由の一つです。
やっと、おかしいぞ?と気づきが生まれたのは、‟理由もなく涙が出る”日がやってきたとき。
気がつけば、疲れているはずなのに、なかなか寝つけなくもなっていました。
ベッキーさんと同じように、忙しかったけれど仕事は楽しかったんです。
それでも、涙は出るんですね。
私が恵まれていたのは、周囲の人たちが気づいてくれたこと、そして「残業はするな、休日は仕事をせずただ休め」と言ってくれたこと
その時、私は思いました。
「こんなに忙しいのに、休めないよ!」「仕事が止まって迷惑かけちゃう!」
ただ同時に、自分でも「これはマズイ」こともわかっていたので、周囲の声に素直に応じてみました(勇気がいったし罪悪感もありました)。
それで、どうなったかというと・・・
早めにストレスサインに対処したおかげで、間もなく心身が安定しました。
「寝て休む」このシンプルなことが、どれだけ大切なことか・・・。
きっとあのまま走り続けていたら、「残業しない」「休日は休む」では済まず、「仕事を休む」ことになっていたのではないかと思います。
仕事と距離をとってみて気づいたことも多くありました。
極論、自分が休息をとっても仕事はまわるんだってこと。
こなしきれない仕事量でいっぱいいっぱいに思っていたけど、冷静な思考力が戻ってきたら、もっと合理的で効率的なやり方があることにも気づきました。
むしろ、何で今まで気づかなかったの?と(脳がうまく働いていなかった証拠)。
周囲の人たちと、もっと普段から相談をし合うことの大切さも知りました。
そして、休息をしっかりとることで、前よりも仕事がずっとスムーズにまわるようになったこと。
「休息をとったら仕事が滞ってしまう!」と思いこんでいましたが、「休息をとった方が仕事がスムーズにまわりだした」という感じです。
もちろん、私の場合は、という個人的な気づきではあります。
そして、自分をフォローしてくれた人たちがいたからこそ、気づけたこと。
今でも、心から感謝しています。
本当にありがとうございます
「ストレスサインに気づいて心身を休める」そんなシンプルなことが、いかに重要で、なのに意外と難しいことか、身をもって知った経験です。
ストレスまみれでどうしようもない心身の状態になってしまうと、少しの休息では回復が難しくなってしまうこともあります。
なので、「あれ?」というストレスサインに気づいて、早めに寝て休むことで上手く心身のバランスをとっていけるといいですよね。
ストレスと上手くきあっていくことができれば、人生は豊かなものになるのではないかと考えています。
「楽しいこと」でも、ストレスになる
そして、ベッキーさんの話に含まれる大切なことの2つめ。
それが、「楽しいこと」でもストレスになる、です。
えー、ストレスって、つらいとか悲しいとか、そういうことでしょ?
ノンノン、そうとも限らないのよ
アメリカの社会学者ホームズによる『社会的再適応評価尺度』という有名な尺度があります。度々、引用されるので、ストレスに関心のある方たちはみたことがあるかもしれません。
これは、生活上起こる出来事に個人が感じるストレスの程度をまとめたものです。
30位まで挙げてみます(それ以下もあるので興味のある方は調べてみてください)。
順位 | 出来事 | ストレスの程度(%) |
1 | 配偶者の死 | 100 |
2 | 離婚 | 73 |
3 | 夫婦での別居 | 65 |
4 | 拘留、刑務所入り | 63 |
5 | 親密な家族の死亡 | 63 |
6 | 自分の病気あるいは傷害 | 53 |
7 | 結婚 | 50 |
8 | 解雇 | 47 |
9 | 夫婦の和解調停 | 45 |
10 | 退職 | 45 |
11 | 家族の一病気 | 44 |
12 | 妊娠 | 40 |
13 | 性的障害 | 39 |
14 | 家族に新しいメンバーが加わる | 39 |
15 | 新しい仕事への再適応 | 39 |
16 | 経済状況の変化 | 38 |
17 | 親友の死亡 | 37 |
18 | 転職 | 36 |
19 | 配偶者との論争の回数の変化 | 35 |
20 | 1万ドル以上の借金 | 31 |
21 | 担保や貸付の損失 | 30 |
22 | 仕事上の責任変化 | 29 |
23 | 子どもが家を離れる | 29 |
24 | 親戚とのトラブル | 29 |
25 | 特別な業績 | 28 |
26 | 妻が仕事を始める、中止する | 26 |
27 | 就業・卒業・退学 | 26 |
28 | 生活上の変化 | 25 |
29 | 習慣の変化 | 24 |
30 | 上司とのトラブル | 23 |
時代も少し前、米国での研究なので、少し違和感のある表現もあるかもしれませんが、注目したいのは「楽しいこと」でもストレスになりうる、という事実です。
『結婚』や『妊娠』は、
おめでとう、幸せいっぱいだね
なんて言われたり、
『転職』『特別な業績』『就業』も、
おめでとう、いやー前途洋々だね
なんて言われたりする、いわゆるオメデタイことだったりします。
そして、本人も、幸せだったり楽しかったりやる気に満ちていたりするのです。
ベッキーさんは、当時、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで『特別な業績』をあげて、次々に新しい仕事が舞い込んでいました。仕事が楽しかったというのも本当だと思います。
いずれも、自分を取り巻く環境や生活が大きく変わる出来事です。それがストレスとなりうることもあるんですね。
これは、上手くストレスとつき合っていく上で、知っておきたい情報の一つです。
ストレスを正しく知ろう
今回は、トーク番組でのベッキーさんの話から、
- ストレスサインに気づく
- 「楽しい」ことでも、ストレスになることがある
ことについて、取り上げてみました。
ストレスと上手くつきあうには、まずストレスを知ることから。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
コメント